他県から、高速道路を利用して足を運んでくださるカップル。
大切な日に、ペアリングを作りに来てくださるカップル。
幸せそうなカップルもいれば、なかには交通渋滞に巻き込まれ、ぴりぴりしているカップルも(笑)
利用者から数多くの満足の声を受け取っているのは、越谷市赤山本町に店を構える手作り指輪工房の「Happy Ribon」。さまざまな愛の形を見守りながら、田中駿弥さんはカップルの手作り指輪をお手伝いしています。
「1日1組限定」にこだわっている理由とは?Happy Ribon店主の田中さんから、詳しくお話を伺ってきました。
「Happy Ribon」がスタート地点に立つまで
手作り指輪体験のことや「Happy Ribon」について穏やかに話して下さる、店主の田中駿弥さん
動物関係の専門学校を卒業した後、車のバッテリーを作る工場で働いていたと話す田中さん。
「やりたいことを仕事にする」「好きを仕事にする」よりも「福利厚生・給与面が充実している」を優先し、就職活動をしていた。入職後、仕事に熱中していた1年目を過ぎると「ずっとこの働き方を続けるのか?」と疑問を感じるようになりました。
起業のきっかけとなったのが、社会人1年目に遭遇した2011年の東日本大震災。
メディアで東日本大震災の様子が報道されることが多く、「次の瞬間に、死ぬ可能性があるんだな」ということを強く実感したそうです。
自分のことに置き換えて考えたときに、「自分の人生なんだから、好きに生きよう」と感じ、昔からチャレンジしてみたかった起業を決意。社会人2年目には、起業をするために貯金を始めていました。
田中さんの作業デスクにある3Dプリンタ「X FAB」
3Dプリンタで作られたジュエリーの原型。「造形依頼」として、主に業者さんからのご依頼で制作されている
ーー「Happy Ribon」としてのスタートに立つまでは?
田中さん:起業すると言っても、何をしたら良いのかわからなかったです。
まずは、自分の好きなことや興味関心があるところでビジネスにできたらいいなと考えていました。そのなかの1つが、ジュエリーでした。
素材はプラスチックの樹脂で、少しずつ薄い層が積み重なってジュエリーの原型となる。柵部分を取ってからご依頼されたデザイナーさんへ送る。
ーージュエリー業界へ踏み出そうと考えたきっかけは何ですか?
田中さん:起業をしようと考えていた時に、シルバーアクセサリーの雑誌をよく読んでいたんです。
アクセサリーって綺麗だなと感じていて、百貨店のアクセサリーやジュエリー売り場を見たときに、「これは、もしかしたら自分でもできるのでは」と感じました。商品が小さいから、店舗も広くなくて良いですし、在庫も腐らないですしね。
その後は、社会人向けジュエリービジネススクールに行きまして、ようやくスタートラインに立ちました。
溶接後は丸い棒に指輪を通し、ハンマーで少しずつ叩いて形を整えていく。
ーースクールの授業内で、ジュエリーを作る際に一番難しいと感じた工程はありましたか?
田中さん:今まで触ったこともない工具、機械。全てが初めてで、難しかったです。
難しくても、ジュエリー作りに関する一通りのことを学びました。学んだことで自分が何が苦手なのか、自分が出来ることは何かに気が付きました。また、職人さんの凄さを肌で感じました。体験することは、大切なことだと感じました。
この体験によって得られるものは多かったです。結果的に、チームの様に関わってもらえる職人さんに出会うことができました。「Happy Ribon」のサービスは、職人さんに品質を支えてもらっています。
バフモーターで指輪を磨く工程。お客様が行うことも可能だが「怖い」と感じる場合には、田中さんが代わりに磨いてくれる。
友人の言葉から生まれた「Happy Ribon」
美しい結婚指輪とペアリングのサンプルが並ぶ。結婚指輪のなかで最も人気がある、柔らかな輝きを放つプラチナリング。左が甲丸デザインで、右が平打ちデザイン。
ーー手作りの指輪をサポートする工房を始めようと思ったきっかけは何ですか?
田中さん:起業したばかりの頃は、結婚指輪のオーダーメイドの販売をメインでやっていたんですね。その後、友人が「結婚指輪がほしいんだけど予算が厳しい」と話してくれました。予算を抑える方法を模索したときに、手作り指輪に出会いました。
ご家庭内の事情もあってその友人の結婚指輪作りは携われなかったんですが、その友人の言葉からヒントを得て「Happy Ribon」が生まれました。
ーー「Happy Ribon」のオープン当初に苦労していた点などはありましたか?
田中さん:やはり、集客です。当たり前ですが、オープンしてもお客様が来ないのですから。似た商品、似たサービスではお客様に選んで頂けないわけです。そのため、当店にしかできないこと、当店でお客様に提供したいものは何だろうと真剣に考えました。
いろいろと考えた結果、「貸し切り」と「心地よい空間」の2つです。この2つの答えは今考えていると、間違えていなかったと感じます。2020年はコロナの影響もありましたが、100組以上のお客様に選んでもらえたわけですから。
肌なじみの良いゴールドは、温かな色味。
ーー他店で修行を積まれた経験などはありましたか?
田中さん:ジュエリーのビジネススクールに通って勉強をして、すぐお店を出したので他店で修行をしてこなかったんです。起業してから「Happy Ribon」ができるまでが、私にとっての下積みでした。「Happy Ribon」ができてから、ようやく大きな一歩を踏み出して自分の足で立てていると実感しています。
ーー1日1組限定と書かれていますが、お店ならではのこだわりがあるのでしょうか?
田中さん:「1日1組限定」は、他店ではできないことだと思っています。
これは、当店の強みの一つです。お店の良さは、1人ひとりのお客様に細かくサービスを提供できることだと考えています。また、大切な日やイベントで当店を選んで頂いております。指輪がお客様にとってとても大切な品になることはもちろん、指輪作りを通して、カタチある思い出になればよいなと思います。
指輪に入れられる誕生石は、在庫のなかからお好みの石を選ぶことができる。石によって表情やカラーが異なるので、選ぶ工程も体験に含まれている。
指輪作りの工程は4ステップ!不器用さんでも必ず仕上がる丁寧なサポート
「不器用でも、本当に指輪が仕上がる?」
「初めてなのに、本当に当日で指輪が出来上がるの?」
初めて足を運ぶ人にとって、そんな不安を抱えることもあるかもしれない。しかし、指輪作りの始めから仕上げの段階まで、田中さんは側でやさしくサポートしてくれる。
名入れ刻印やコーティングなどのサービスも行っており、カップルが自ら名入れ刻印できるサービスが人気を得ている。リングライトとスマホ用のミニ三脚は無料で貸し出してもらえるため、お二人の思い出を動画や写真で残しておきたいカップルからも選ばれている。貸し切りの工房だから、周りの目を気にせず自宅のような感覚でゆったりと指輪作りの様子を写真や動画に収められる。
ーーそれでは、手作り指輪を作るときの工程について詳しくお伺いできますか?
田中さん:お客様に体験して頂く内容として、大まかに言うと「切る」「曲げる」「溶接する」「磨く」の4ステップがあります。
体験時間は、お客様によってまちまちです。お客様の多くは指輪作りが初めてですので、1つひとつの工程で私が確認を行い、できないところや難しいところは代わりに行います。作業は、お客様のペースに合わせています。
できる限りお二人だけで作りたいというカップルの場合は、5時間ほどかかるケースもあります。反対に、名入れなどを一切しない場合は、早い方だと2時間半くらいで作業を終えられる方もいます。
曲げる前の指輪の材料。正しい長さに切って曲げることで、左側は甲丸リング・右側は平打ちリングとなる。
田中さん:工程としては、溶接は火を扱うので私が作業しますが、それ以外の工程はお二人に体験して頂いています。
切る段階では、指輪のサイズに合わせて棒状の金属をカットします。曲げて頂いて丸くなった指輪を私が溶接した後には、丸い棒に指輪を入れてハンマーで叩きます。叩いて丸くして形を整えていきますが、強く叩いてボコボコになってしまったら私が修正します。
磨きの段階で「バフ」という機械を使いますが、その機械の使用が「怖い」と感じるお客様がいましたら、私が代わりに行います。磨きができたら洗って、お客様へ指輪をお渡しします。
「体験で喜ばれるお客様も多いんです」と話される、どこか懐かしい雰囲気がある文字入れの機械。
メモ
なお、「Happy Ribon」で作れる結婚指輪は、2.5mm幅のベーシックな甲丸と平打ちの2種類の形状と、鏡面仕上げかマット仕上げから選ぶことが可能。
素材は、結婚指輪の定番ハードプラチナ、イエローゴールド[K18YG]、ペアリング向けイエローゴールド[K10YG]、シルバー[SV950]
カップルの好みに合わせて、指輪の形状や材質などは選びたい。
溶接時に使用されるバーナー。プラチナ・ゴールドは1,000度まで炎が出せるバーナーを使用し、プラチナは1,300度まで炎が出せるバーナーを使い分けて溶接している。
「1日1組限定にしてよかった」と思えたお客様とのエピソード
ゆったりとしたソファが配された商談室。こちらの部屋に指輪のサンプルが置かれている。
ーー印象に残ったお客様とのエピソードなどはありますか?
田中さん:「Happy Ribon」は、2018年にスタートしました。
2020年は100組以上のお客様にご来店頂き、多くのお客様とお会いしました。新婚カップルやご結婚10周年のカップル、同性カップル、熟年カップル、学生カップル、大切な人のプレゼントとしてご来店されたお客様、親子で指輪作りをきたお客様、友人同士……。
様々な愛のカタチのお客様に、ご来店頂きました。関東のお客様をはじめ、愛知や長野、新潟や宮城から足を運んでくださるお客様もいます。
工房内は白と黒を基調とした落ち着いた空間となっている。手前が田中さんの作業台で、奥側がお客様が使われる作業台。カップルで横並びに座れる設計になっている。
田中さん:当店のインスタグラムを見ると、多くのお客様のことを思い出します。印象に残っているのは、自分の誕生日プレゼントとしてご来店されたお客様です。お一人ではどうしても、多くのお客様が来るような店舗や、外から目立つ店舗には行きにくいかもしれません。
当店はありがたいことに、見つけづらい位置にあります。よく言えば隠れ家的で、悪く言えば地味なのかもしれません。
なので、このようなお客様に選んでもらえたことは、良い意味で想定外でした。ただ、おひとりさまがご来店しやすいことは大切なことです。よくよく考えると、指輪はカップルだけのものではありません。指輪を見たり着用して温かい気持ちになったり、今日も頑張ろう!とスイッチが入ったり、少しでも背中を押すような、前向きになれるような役目を果たせればといいのです。
それに気付かせてくれたのが、お客様です。
工房の壁には、指輪作り体験に使用される工具達が賑やかに飾られている。
コロナ禍による影響とHappy Ribonの今後の展望
ーー2020年からのコロナ禍で、影響を受けたところはありましたか?
田中さん:昨年の初の「緊急事態宣言」のときには、経営にも影響は出ました。それ以降は、右肩上がりに上がっています。
1日1組限定だから、感染を心配しなくても良いという点でかえって選んでもらっているところがあると思います。毎月ある程度一定で少しずつゆるやかに上がっていたんですが、メディアの発言で浮き沈みは大きくなったと感じています。昨年よりも、今年の方が2ヵ月おきくらいに浮き沈みがあるので、ヒヤヒヤしている月はありますね。2021年の方が、多くの人に経済的な影響が出ているのかなというのは感じますね。
指輪作り体験時にはデニムのエプロンを貸し出してもらえる。手ぶらで指輪作りを体験できるところも「Happy Ribon」の魅力
ーー「Happy Ribon」として、店舗外で活動されていることはありますか?
田中さん:提携している結婚式場と、サプライズの企画を考えています。
その取り組みで、より多くの人に喜んでもらえたらなと感じます。
ーーそれでは、最後に「Happy Ribon」として今後挑戦していきたいことを伺えますか?
田中さん:「店舗を増やしたい」「スタッフを雇用したい」この2点で、理由は単純です。
その方が、お客様に楽しんで頂けるチャンスが広がるからです。お客様に満足頂くことはもちろん、スタッフにとっても経験や成長、楽しさなどを共有できればなと考えています。
少し前に「1日100食限定販売」を実践されている佰食屋に関する動画を見ましたが、「売れるのに売らない戦略をしている」のが印象的でした。売り上げも大事だけど、それ以外のことも経営には大切だということを学びました。
「Happy Ribon」は何を大切にしたいのか、何を提供したいのか、を改めて考えさせられました。「Happy Ribon」が何かのきっかけだったり、人の結びつきに繋がれば最高です。あとは最近、1人で働くことに限界を感じていることもあります。1人よりも2人、2人よりも3人、三人寄れば文殊の知恵とか言いますしね。
「Happy Ribon」を成長させるには、自分ではない誰かの力が必要だと思います。
メモ
~編集後記~
指輪の制作工程や使用する機材など1つひとつ丁寧にご説明を頂きながらの取材で、気が付けば2時間半もお話を伺わせて頂き、本当にありがとうございました。温かな工房の雰囲気や田中さんのお人柄が、お客様にとって心に残る特別な1日を作るのだなと実感していました。
Happy Ribon
住所: 〒343-0808 埼玉県越谷市赤山本町17−1
電話: 048-945-3248
営業時間:11:00~19:00
定休日:水曜日
公式サイト:https://happy-ribon.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/happy_ribon/?igshid=1cukqvm4w4xrh
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCcZbZZyQs4k43BUGVKSt3Rg