川口市:取材

夫婦の手作りが溢れる「熊谷ガラス工房&Canari」で本格的な吹きガラス体験の思い出を。

2021年6月30日

 

なんて可愛らしい小さな家が建っているんだろう。

そう思ってナビを見ると、そこは「熊谷ガラス工房&Canari」だった。

窓ガラスには絵画のようなステンドグラスが収まり、ドアの取っ手にはブルーのガラス、ドアの窓はハート型にくり抜かれている。避暑地や観光地に建っていたなら、外観にこだわりのある小さな美術館のようにも見えると思う。

童話から飛び出してきたようなこのアトリエは、長い期間をかけてご夫婦で力を合わせて建てたんだそう。

遊び心とカラフルな光が溢れるアトリエのなかで、「熊谷ガラス工房&Canari」の歩みやガラス吹き体験についてお話を伺ってきました。

「熊谷ガラス工房&Canari」を彩るガラス作品とステンドグラス

2002年の8月にオープンした「熊谷ガラス工房&Canari」は、吹きガラス体験を楽しめる工房として開業してから19年目を迎える。

ご主人がイギリスの美術大学で様々なジャンルのアートに触れ「最終的にガラスに辿り着いた」とのこと。

帰国後は観光地のガラス工房に就職するも独立を決意して、川崎にあるガラス作家の先生の工房の門を叩くことに。その4年後、埼玉県の南鳩ヶ谷にガラス工房をオープンし現在に至る。

 

アトリエの内装。一枚板の大きなテーブルもご夫婦の手作り。鮮やかなタイルが綺麗に埋め込まれている。

ーーガラス工房やこちらの建物(アトリエ)は、どのように建設されたのでしょうか?

熊谷さん:まず、隣の工房は一般住宅をリフォームして、1階は吹きガラスの制作スペースにしました。ガラス熔解炉も自分達で作って、内装も自分達で仕上げています。このアトリエが建っている場所は駐車場だったんですが、7年ほど前に隣地を購入しました。

駐車場は手作業で整地して小屋の基礎から、ほとんどを自分達で作りました。だから、この小屋は一番大きな作品ということになりますね(笑)

ーーオープン当初に苦労されたことはありましたか?

熊谷さん:近隣の人々から「ここは美容室?」「ここは喫茶店?」と間違えられることもありまして、ガラス工房だと周りの人に認知してもらえるまでに時間がかかりました。

オープン当初は駅でポスターを貼らせて頂いていましたが、少しずつ口コミで広がっていったように感じています。ホームページを開設していましたから、関東近県から訪れるお客様が主でしたが、コロナが流行してからは川口市内の方が多く来て下さるようになりました。

ーーガラス工房の繁忙期はいつ頃なのでしょうか?

熊谷さん:夏休みはお子さんが自由研究で来られたり、ご家族連れの方が体験に多くいらっしゃいます。

炉の温度は1,200度ほどあるので夏場の工房はとても暑くなるんですが、「吹きガラスは夏」のイメージがあるみたいで夏休み期間中が大変込み合います。今は密にならないように配慮して、1時間あたり1組の体験にスケジュールを調整しています。

吹きガラスの体験でおすすめなのは、秋から冬にかけてですね。ガラスを吹くのにちょうどよい気候なので、平日ならゆったりと制作に集中して頂けると思います。

ーーガラス教室もされているとのことですが、作るものは徐々にステップアップするのでしょうか?

熊谷さん:教室ではガラスの種を竿に巻き取るところから本格的に学んでいきます。道具やガラスについての基本的な知識を覚えていただきながら、箸置きなどの小物を作るところから始まって、コップを一人で作るところまではじっくりと時間をかけて進んでいきます。

教室は、専門的に技術を学びたい方が対象です。教室を希望する方には、ガラス吹きを一度体験して頂いています。数ある工芸の中でも、吹きガラスは特殊な制作環境を必要とします。体験制作を通して吹きガラスがどういったものかを知って頂いてから、継続して学んでいきたいかどうかを見極めて頂いています。

 

手乗りサイズの鳥のオブジェ。美しい色合いで、気泡が模様のように入っている。

ーーブライダル制作では、どのようなガラス作品を制作されるのでしょうか?

熊谷さん:結婚式で奥様にサプライズしたいという方がいらっしゃって、旦那様がワイングラスをペアで作られたことがありました。

ブライダル制作は、式場のコンセプトに合わせた作品を制作することもできます。例えば、ドレスコードがジーンズの結婚式を挙げるお客様がいらっしゃいました。ジーンズの色に合わせて、インディゴブルーの箸置きを作って頂いて、式の出席者にお持ち帰りして頂いたという事例もあります。

 

サンドブラスト体験として、表札づくりもできる。美しいガラスの表札は、新築を建てたばかりのご夫婦が作っていかれることもあるそう。

ーーサンドブラスト体験についてもお伺いできますか?

熊谷さん:表札を作るサンドブラスト体験では、お名前とイラストを彫って頂いて色を付けます。ベースとなるガラスは手作りのため、すべて一点ものになります。

ーー小学生の校外学習も受け付けているそうですが、どのような内容なのでしょうか?

熊谷さん:小学2~3年生の校外学習は、ガラスがどうして出来たのか・生活のなかでどんな風にガラスが使われているのかということをお話しています。吹きガラスを吹いているところを見てもらうんですが、竿からガラスを切り離す時に皆さん驚きますね(笑)

川口市立科学館で大人向けに企画されたイベントでは、科学知識とガラス制作を交えて、多くの方にガラス工芸を知っていただく活動を不定期で行っています。

 

ーーこちらのアトリエのステンドグラスも、手作りでしょうか?

熊谷さん:はい、そうです。

実は、つい先日、天窓のステンドグラスは設置したばかりで完成するまでに半年かかりました。

ーーグラデーションになっているステンドグラスは初めてみました!

熊谷さん:これは、お皿状に吹いた手作りのガラスを使用しています。工芸作家ですから、伝統的な技法にとらわれずに新しい表現を追求しています。

 

ー手作りの照明もとっても素敵ですね。きっと購入したがる方が沢山いらっしゃるのではないでしょうか?

熊谷さん:こちらの照明も、吹きガラスで制作したものです。(現在のところ、注文制作は受けておりません)

 

ーー窓辺の鳥のオーナメントも可愛らしいですね。

熊谷さん:ありがとうございます。こちらは販売しているものです。

出会いを大切にして、お客様が気に入ったものを購入して頂けたらと思っています。

 

吹きガラスの工程

工房へと場所を移し、体験でも作れる吹きガラスのコップを実際に作って頂きました。

吹きガラスをするためには炉の温度を1,200度まで上げる必要があるため、わざわざ取材のために炉の温度を調節してくださっていました。なお、体験では15~20分くらいでコップを1つ作れるそうです。

ーー吹きガラスの体験ではどのような工程を体験できるのでしょうか?

熊谷さん:1,200度で溶けて光を放っているガラスに遭遇することは、日常生活ではまずありません。貴重な体験となるように、お客様がご自身で触って頂けるところを増やしております。

アクティビティーとして楽しんで頂けるように、豊富なデザインサンプルを用意しております。グラスは値段が4段階に分かれますので、お値段によって色と技法が増えていきます。初心者の方でも、一番グレードの高い装飾にもチャレンジして頂けます。

 

ガラスに色をつける粉を種に付けている。今回はブルーのグラスになるそう。

ーー吹きガラス体験に対象年齢はありますか?

熊谷さん:対象年齢は、できれば小学校1年生以上でお願いしたいと思っています。

個人差がありますので年齢では区切れない部分はありますが、大人用の道具しかありませんので、ある程度の背丈とお話が理解できることが大切です。安全性を最優先で設定しております。

 

種が大きくなり、少しずつ円柱状になっている。時々息を吹き込みながら、絶えず竿を回し続けている工程。

ーーガラスを吹くのは肺活量が必要なものなのでしょうか?

熊谷さん:肺活量は必要ありません。

ピアニカのように「ふうーーー」と、細く長く同じ圧で吹いて頂ければ、ガラスは膨らみます。

ーー綺麗に吹きガラスを作るポイントはありますか?

熊谷さん:リラックスして、姿勢を正すことがとても重要です。ぐいぐい強く動かしてしまうと、ガラスも歪みやすくなってしまいます。一定のリズムで作ると良い形になります。

 

息が吹き込まれ丸くなってきたグラスに模様が美しく浮かび上がってきた。

ーー体験をして頂くときに意識されていることはありますか?

熊谷さん:体験で作って頂いたグラスを、大事な人にプレゼントされる方もいます。「おじいちゃん、おばあちゃんにプレゼントしたい」という方やブライダルなどのご利用も多いですね。物に気持ちがプラスされるので、吹きガラスは選ばれているのかなと思っています。

ーー今後、工房で挑戦したいことはありますか?

熊谷さん:時代の流れに合わせて、工房全体のサービスを向上させていきたいです。

今後は、隣のアトリエのようなメルヘンな癒しの要素を取り入れていきたいと思っています。こういった活動が、吹きガラス工芸への入り口に繋がればと思っています。

 

軸を移し替える作業。ガラスの熱が冷めてくると、グラスに散りばめた夏らしい色合いが浮かびあがってくる。

ーー長く続けるために、皆さん色々と工夫されているんですね。

熊谷さん:時代と共に変化していくことが、伝統工芸の継承に欠かせない課題となっております。

ガラス炉は常時、365日24時間、1,000度以下にはなりません。

常に燃やし続けている状態なので、遠出ができないんです。いきなり落雷で停電したときには簡単に窯が止まってしまうんですが、復帰するのが大変なんですよ。

 

ガラスの口を広げていく作業。底がブルーのコップの形になってきている。

熊谷さん:今、インターネットを活用して、生産者と消費者が直接繋がれるようになってきています。そういった意味では、うちの個人工房も新しいスタイルなんですね。個人でデザイン・製造・販売をやっています。

これまでよりも、お客様とより近い距離で関われていると実感しています。ブライダル関係で一緒に良いものを作ると、お礼のお手紙を頂くこともあるので嬉しいですね。

 

ーー感染症対策で行っていることはありますか?

熊谷さん:消毒はこれまでにも行ってきましたが、竿に直接口をつけて吹くのに抵抗がある人もいます。そこで、脱着できる吹き口を新たに作りました。ストローの使い捨てだと、安心して体験して頂けるかと思います。

ーーそれでは、最後にメッセージをお願いいたします。

熊谷さん:コロナが収束した後の世界は「心の豊かさ」が求められるようになると思います。働き方やライフスタイル全般において、自分の内面のより深い部分に向き合うようになるでしょう。

本当に自分が求めるものは何なのか、積極的に選択する時代になります。

単純な消費から抜け出し、新たな価値を自らの手で創り出す喜びを多くの人に感じて頂きたいと思います。

 

体験で作れる美しいガラスのコップ。手作りの温かな厚みが手に持ったときにしっくりとくる。

メモ

~編集後記~

テーマパークを訪れたような気持ちにさせてもらえる「熊谷ガラス工房&Canari」は、「また家族で足を運びたい」と思わせてくれる魅力が詰まった場所でした。私も冬に是非体験に来させて頂きたいと思いましたので、実際に吹きガラスを体験したときにはレポを追記させて頂きます。

チェックリスト

  • 熊谷ガラス工房&Canari
  • URL: http://canari.jp/
  • 電話:(048)283-8305
  • 営業時間:11:00~18:00
  • 定休日:毎週木曜日
  • 住所:〒334-0013 埼玉県川口市南鳩ヶ谷5丁目8−4
  • アクセス:埼玉高速鉄道線「南鳩ヶ谷駅」の1番出口から徒歩5分

(文・写真:小春**)

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