6月中旬。梅雨入りが発表された翌日に、金属の切削加工を行っている小堀製作所を訪れた。
工場内全体を熱気が包み、所狭しと並べられた機械達は大きな音を上げて稼働している。工場の中央には、大きめの扇風機が一台置かれ、忙しなく風を送っていた。社長の小堀さんに工場内を案内して頂いていると、立っているだけでも額に汗がにじんできた。
「8月には40度くらいまで気温が上がるんですよ」
と、涼しい表情で笑って話される。取材の途中に小堀さんが出してくださった麦茶が、全身に染み込むかと思うくらいに冷たくて美味しかった。
広々とした工場を一人で切り盛りされている小堀さんに、小堀製作所を立ち上げたきっかけや金属加工の仕事についてお伺いしてきました。
小堀製作所がスタートするまでの道のり
自動車整備士としてディーラーのメカニック(自動車の修理や車検などの定期点検、リコール時の修理対応などを行う)に就職後、2~3年働いていたと話される小堀さん。
その後は酒屋で働いた時期もあったが、ゴーカートレース仲間で金属加工工場で働いている人から「人が足りないみたいだけど、やってみないか?」と声を掛けられたのが25~26歳の頃。それ以降、「ものづくり」にもともと興味を抱いていた小堀さんは、金属加工に携わる道を歩み始めます。
使い込まれた大型の機械達が、工場内に所狭しと並べられている。機械のなかには同業者からの頂きものも多いとのこと。
ーー小堀製作所を立ち上げるまでの話についてお伺いしてもよろしいでしょうか?
小堀さん:25~26歳くらいの頃に金属加工の工場で働き始めましたが、そこで学んだことが一番大きかったです。加工技術や注文を受けて商品を量産するための技術について学ばせてもらいました。
33歳でそこの会社を辞めて、しばらくはガソリンスタンドで働いていたんです。その頃は、オートバイでサーキットを走っていました。オートバイで壊した部品があって直してほしいものがあったときに、カート仲間の人に作ってもらったんです。
部品を取りに行ったときに「今は何やってるの?」と聞かれて「ガソリンスタンドで働いている」と言ったら、「あの会社を辞めたらうちに来いよって言ったじゃないか」って言われまして。それで、吉川の工場に入ったのが33歳の頃でした。その工場では、45歳まで働いていました。
小堀製作所がメインで請け負っているのは、回して削る丸物加工。
ーー独立しようと思ったきっかけはありましたか?
小堀さん:前の会社が親族会社だったんですが、内輪揉めがあったんですね。それで内紛が起きてしまって喧嘩別れしたときに、その会社に残る選択肢が無かったんです。
前の社長が方針を決めて会社の中を変えようとしていたんですが、その社長が失脚してしまったんです。その社長が会社にいないなら、辞めようと思っていました。また就職をして同じような目に遇いたくないなという思いがあって、独立を決めました。仕事を辞める前に場所を探して、場所が決まってから会社を立ち上げることにしました。
ーーこちらの工場は物件を自身で探されたのでしょうか?
小堀さん:ここの工場は前に務めていた工場の協力工場で、もとは他の方がやられていた工場なんです。その方が年配だったので「そろそろ工場を辞めたい」という話を耳にしていました。
ちょうどその時に独立しようと場所を探し始めたので、ここの工場をそのまま受け継いだんです。
苦労を重ねた独立当初
金属に穴を開ける機械。高熱の油によって製品に穴を空けている。
ーー立ち上げ当初に苦労したことはありましたか?
小堀さん:当初は、お金で苦労しましたね(笑)
当時は、かなり背伸びしたこともありました。でも、ここにある機械のうち2台は、無料でもらえたものだったので本当に助かりました。前にお付き合いのあったところから1台と、北本の会社から1台譲って頂きました。
「持っていけよ」って言って頂いて、仕事の幅も広げられるので有難く頂戴しました。自分自身では、お金を借り入れしてNC旋盤を3台買い揃えました。自分としては、清水の舞台から飛び降りる気持ちでいましたね。
こちらは真鍮の製品。中側まで綺麗な仕上がりになっていることがわかる。
ーー普段は何時から何時まで働かれているのでしょうか?
小堀さん:平日は、8時から17時まで稼働することは決めています。ここのところは8時前には始めて、18時くらいまではやっていますね。平日で時間が足りなければ、土日やれば良いかなと思っています。
去年はサーキットの練習中にバイクに乗ってて肩から落ちてしまって、鎖骨と肋骨を5~6本折って、肺気胸をやってしまって3週間ほど入院していました。今年はミニバイクで右手首を折ってしまって。そのときに仕事に穴を開けてしまったので、休日を返上して働いているときもあります。
右手首はプレートを入れた後に仕事中に腕を曲げてしまって、曲がったまま骨がくっついてしまいました(笑)本当は仕事中も装具をつけていなければいけないんですけど、邪魔になってしまうので外して作業しています。
機械を稼働している途中に「公差」に入っている製品に仕上がっているかを調べている。
より良い「ものづくり」を追求できるのが金属加工
ーー金属加工をされていて、やりがいに感じるところはありますか?
小堀さん:今まで培った技術を活かして「ものづくり」ができて、お客様に渡して喜んでもらえる瞬間があることが嬉しいですね。
自分が納得できないものは、到底出すことはできません。自分が納得したうえで「もっとよく出来る」って思うと「ここをああしよう、こうしよう」っていう案が出てくるんです。そうやって試行錯誤することも好きなんだと思うんです。
ーーこういった金属加工の製品というのは、寸分の狂いがあっても納品できないものなんでしょうか?
小堀さん:工業製品には、「公差」と呼ばれる製品として許容される寸法があるんです。
「公差」から外れるものは当然納品できませんし、公差の範囲内だったとしても見た目が悪いものは、はじいたりしますね。見た目が綺麗じゃないと、お客様も納得してくれませんから。
ーーそういった製品はすべて手作業で作られているのでしょうか?
小堀さん:手作業で作るのではなく、機械にセットしています。セットしたものを途中で抜いて、綺麗に製品が仕上がっているかチェックしています。
良いものができなければ、機械の中の刃物を交換していますね。
大型の機械の裏側には、材料が保管されている。
製品の品質保持のためにクーラーを導入した2021年
この日はクーラーを使用できない作業を行っていたため、工場中央の扇風機が回っていた。
ーー最近は、仕事をするうえで工夫されていることなどはありますか?
小堀さん:最近では、今年の4月にエアコンを導入したんですよ。
ーー夏場の熱中症対策でしょうか?
小堀さん:暑いと鉄がサビちゃうんですよ。せっかく材料を持ってきてもらっても、鉄がサビてしまったら使い物にならなくなってしまうんです。だから、製品の品質を保持するために、エアコンを導入しました。
冬場は寒くてストーブを焚いていたんです。でも、ストーブが二酸化炭素を発生して、それでも鉄ってサビてしまうんです。だから、人のためじゃなくて製品のためにエアコンを導入しました(笑)ただ、工場の屋根は高いし外壁も薄いんで、エアコンを使用するにしても対策を考えなければいけないんですけどね。
こちらの湯気が上がる機械を使用しているときには、クーラーの使用は難しいとのこと。
ーー夏場の熱中症などは対策をしていますか?
小堀さん:夏場は、熱中症にならないように水分と塩分をしっかり摂るように心がけています。
ーー取り扱っている機械の種類について伺えますか?
小堀さん:NC旋盤が3台と複合機が1台、ピーターマンが3台、穴を空けるためのマシニングセンターが1台あります。
すべての機械を毎日フル稼働しているのではなく、大体3~4台を同時に稼働させています。1つの仕事が終われば、また別の機械を稼働させていますね。
コロナ禍で影響を受けた2020年。取引先と仕事量が増えてきた2021年
こちらは樹脂で作られた製品。アルミやステンレスなどの金属以外にも、さまざまな材質の切削加工を行っている。
ーー昨年からコロナ禍となっていますが、工場の仕事に影響はあったでしょうか?
小堀さん:仕事量は減ったので、仕事量の確保は苦労しています。一人でやっているので感染症対策は、お客様が来たときにマスクをするくらいですね。自分が感染しないように、細心の注意をはらうしかないかなと思っています。当然、夜に飲み歩きにも行かないですし(笑)
この仕事は2月と8月が閑散期になって稼働が少なくなるんですが、2020年の6月は仕事量がいつもより減ったなと感じていました。
でも、今年は有難いことにゴールデンウィーク前から仕事が増えて、5月の休みは3日間だけでしたね。うちは5月が決算なんですが、嫁にも先月は手伝ってもらって棚卸をしました。取引先も徐々に増えてきたので、2021年は仕事量が増えてきているなと感じています。
巨大なマシニングセンター。穴を開けているところにねじを切る。
ーー作業中に怪我をしないために気を付けているポイントなどはありますか?
小堀さん:作業中は、軍手をつけないようにしています。軍手をつけると、軍手が機械に巻き込まれたときに手まで持っていかれてしまうので。作業中は細心の注意を払うようにしているので、今のところ仕事中の怪我はありません。
機械って手加減してくれないので、一人でやっているから怪我をしても助けを呼ぼうにも呼べないんです。手を少しだけ切ったりは、しょっちゅうです。仕事の怪我ではないんですが、趣味のレースで右手を骨折してしまっていました。
企業理念として「平常心と向上心」を掲げている。主要製品は自動車、オートバイ部品、高圧配管部品、床材加工工具部品、化粧品容器の型などを取り扱っている。
ーー工場の繁忙期などにスポットで誰かに入ってもらうことはあるんでしょうか?
小堀さん:今は一人でやっているので、それは無いですね。お客様から「手伝いに行こうか?」って言って頂くこともあるんですが、申し訳なくてお断りしています。
ーー工場を経営していて、横の繋がりはあるものなのでしょうか?
小堀さん:始めに務めた北本の会社は「うちにあるものは貸してやるから、何かあったら言ってくれよ」って言ってくれていますね。協力工場が無かったら出来ない仕事もあるので、多少は横の繋がりもあります。
以前に機械を買い揃える前に仕事の依頼を受けて、うちじゃできないことを協力工場さんに頼んだこともあるんです。ですが、当然自社でやった方が利益が出るので、その時にきちんと自社で機械を揃えようって思いましたね。
小堀製作所の今後の挑戦
これまでに小堀さんが製作された金属製品。美しい仕上がりで、丁寧に仕事されていることがよくわかる。
ーー今後、小堀製作所で挑戦したいことはありますか?
小堀さん:今後は、会社として積極的に人を育てていきたいと思っています。人を育てれば仕事の幅や量も広がって、できる仕事も増えていくので。出来るのであれば、会社を大きくしたいです。この会社もせっかく興したのに、たった一代で終えてしまうのはもったいないので。仕事の状況をみながら人を雇うことは動いていきたいです。
この業種は、どこの工場も後継者不足に悩まされています。働かれている方が高齢者になって、辞めていかれる工場も多いんですね。先日も取引のある商社から電話がありまして、「閉まる工場があるから必要なものがあったら持っていってくれ」と言ってもらって、道具を譲ってもらってきたばかりなんです。
ーーそれでは、最後にお客様へのメッセージをお願いします
小堀さん:今までよりも良い物を、確実に早く納められる仕事を目指しております。
見積も無料で行っておりますので、興味がありましたら是非お気軽にお問合せください!
メモ
~編集後記~
大きな音が響く工場で取材をするのは初めての経験で、スムーズに取材を進められずご迷惑をおかけしてしまいました。お互いの声が聞こえづらい中でも、金属加工の仕事について丁寧にご説明頂き、社長の小堀さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
※小堀製作所は千葉県にある工場ですので、いずれ「取材deにっぽん」を立ち上げた際には、そちらへ記事を移行させて頂く予定です。
チェックリスト
- 株式会社 小堀製作所
- 住所:千葉県野田市なみき3-20-25
- email:info@kobori-ss.com
- URL:https://kobori-ss.com