川越市:取材

現役鉄道運転士が開催している「鉄道ワークショップ」で子どもの夢を後押しする!

「体験が旅になる」をキャッチフレーズにしたTABICAでは、農業体験や御朱印巡り、ボディペイント体験などさまざまな体験を味わえます。

そのなかでも、思わず目に留まったのが、現役鉄道運転士であるくぅーたぶさんが運営されている鉄道ワークショップ。

現役の鉄道運転士さんが、なぜ子ども向けにそのような活動を始めるようになったのか?

その理由を知るために、くぅーたぶさんにお話しをお伺いすることにしました。

運転士を目指したきっかけと日々の業務

「電車を動かしてみたい」と初めて思ったのは、3歳くらいだったと話すくぅーたぶさん。

母親の実家へ行くときに電車を使っており、物心ついたときには電車に興味を抱いていた。

小学生のころは乗り鉄をしており、初めて地下鉄のスタンプラリーに出かけてお財布を無くしてしまった思い出が心に色濃く残っている。

 

くぅーたぶさんが個人的に好きだと話される出雲の一畑電車。ぱきっとしたオレンジ色の可愛らしい2両電車。

ーー進学するときには、運転士をすでに志していたのでしょうか?

くぅーたぶさん:私は池袋にある昭和鉄道高校に入りましたけれども、鉄道関係の学校に入っても鉄道関係の会社に入職しなければ運転士にはなれないんです。

だから、高校を卒業してから鉄道会社に入職しました。駅や車掌の業務をしてから、運転士になっています。

ーー小さなお子さんが見ていると、色々と対応されることはありますか?

くぅーたぶさん:鉄道に務めている人間の大半は、お子さんとの対応を望んでいます。

だから、小さなお子さんがいたら手を振ったりとか、運転席を見ている子がいたら「嬉しいな」と思う人がほとんどです。もちろん、私も嬉しいですね。駅停車中に、後ろを振り向いて手を振ることもあります。

沿線でお子さんが電車を見ていたら、汽笛を鳴らすこともあります。運転中は両手を使っていて手は振れないので、代わりに汽笛を鳴らしますね。

 

出雲大社駅の一畑電車。一畑電車は研修を受けることで、実際に運転体験もできるそう。

ーー運転士さんは朝が早いと伺いますが、どのような勤務なのでしょうか?

くぅーたぶさん:シフト制になっていますが、出勤時間も時刻表に合わせて何分単位になっているんです。だから、6時1分出勤や6時3分出勤、6時5分出勤などもありますね。一番早い出勤は6時代になります。

ーーそれでは、早いと5時起きくらいになるのでしょうか?

くぅーたぶさん:私は朝ご飯を食べたいので、3時30分には起きてご飯を食べて仕事に向かいます。

日中眠いときには、机にうつ伏せになって休憩時間に仮眠をとります。6時に出勤すると、15時には上がっています。鉄道業務には、早番と遅番、泊まり業務があります。泊まり業務は、昼頃に出勤をして終電ごろまで担当して、宿泊所に泊まります。

ーー運転士をしていて大変なことや、やりがいなどはありますか?

くぅーたぶさん:1年前コロナが流行ったときには、電車のなかがガラガラになりました。それでも、10分に1本は電車を走らせる必要がありましたから、「なんで自分、こんな仕事してるんだろう」と思ったときはありました。お客様の誘導についても、今はラッシュの時でも「車内の中ほどまでお詰めください」と言えないんですよ。だから「前のお客様に続いてご乗車ください」とか、言い方は変えていますね。

電車を車庫に沈めたときには電車の窓を10両分全部閉めるので、それが大変です。仕事内容は厳しいですけれども、お子さんが乗っていて自分の運転する姿を見てくれているのは、一番やりがいがあるなと感じています。

 

鉄道ワークショップを始めようと思ったきっかけ

ーー電車の業務をしながらワークショップをしようと思ったきっかけは?

くぅーたぶさん:コロナが流行ってステイホームが叫ばれた時期は、子ども向けにやろうとは思っていなかったんです。

でも、「親がずっと子どもの面倒をみるなかで虐待が起きるかもしれない」というニュースをみて、親を休ませられるような時間を作りたいなと思ったんです。どこも出かけられないなら、オンラインでワークショップをしようと思いました。

ーーTABICAの中での具体的な活動について教えてください

くぅーたぶさん:クイズの初級編では「この鉄道は何?」とか三択問題で出しています。小春さんはこの問題はわかりますか?

ーー答えは1番の新幹線ですね。

くぅーたぶさん:そうです。こういった問題を5問作っています。ちなみに、サンダーバードの由来は知ってますか?日本の国の天然記念物「雷鳥」という鳥の英語名がサンダーバードというんです。

ーー私も勉強になります!

くぅーたぶさん:サンダーバードは大阪と金沢を結んでいた特急電車なんですが、今は新幹線を作っていますので、なくなりそうな特急電車ではあります。

くぅーたぶさん:ここからが本題ですね。「君も運転して、運転士の仕事体験をしてみよう!」というのをやっています。

ーー運転士の仕事体験はどのような内容でしょうか?

くぅーたぶさん:運転士はどこで仕事をしていますか?といったスライドを作っています。ちなみに、「運転士が大切にしているルール」って小春さんはわかりますか?

ーー後ろの運転士と連携をとって、乗車途中になっている人がいないか確認することかなと思っていました。

くぅーたぶさん:そうですね。それもとても大切なんですが、それは運転士よりも車掌の仕事になるんです。

答えは「声に出して確認すること」なんです。

よく「出発進行!」って運転士は声に出して確認していますが、確認作業が運転士の大切なルールだからなんです。1回の業務あたり、100個ほど声に出して確認する内容があるんです。信号機や速度計を確認したりとか、ブレーキの圧力計だとか。

くぅーたぶさん:運転士の仕事体験としては「信号の確認ゲーム」をやってもらっています。小春さんは電車の信号ってどんなものかわかりますか?

ーー赤色と緑色になる、でしょうか?

くぅーたぶさん:正解です!鉄道の信号機と交差点の信号機は、役割が全然違います。

信号機は大きく分けて、赤色・黄色・緑色があるんですけれども、みんなにはどの信号機がどの役割か?というのを答えてもらっています。たとえば緑色の信号機が出たら「進行」、黄色の信号機が出たら「注意」、赤色の信号機が出たら「停止」と言って頂いています。それじゃあ、黄色と緑色が付いている信号機はどんな意味でしょうか?

ーー初めて見ました!わからないです。

くぅーたぶさん:これはひっかけ問題なんです(笑)答えは「減速」ですね。

くぅーたぶさん:あとは、踏切の手前にある信号機で「特殊信号発光機」といいますが、赤色になったら停止なんですよね。

ーー赤い信号が5つもついているんですね。

くぅーたぶさん:そうです。踏切が故障したり、踏切のなかに車が侵入したりしたら赤色で知らせてくれる信号機です。だから、その信号を見たときには、運転士は止まらなければいけないんです。

普通は黄色の信号は速度を落とさなければいけないんですよね。その指定速度に落とすまでに距離が短い区間のときには「減速信号」というのを出して、減速信号の速度に落としてから「停止信号」の速度に落とします……というふうに、ワークショップは行っています。あとは、運転士に対しての質問コーナーを受け付けたりということをしています。

ーーワークショップでは、他にもやられていることはありますか?

くぅーたぶさん:「運転士・車掌編」と「駅スタッフ編」と、「保線電気車両係編」の3種類があります。

駅スタッフ編では、駅の仕事に何があるの?とわからない人が多いと思いますので、教えたいなと思っています。業務は大きく分けて6種類ですが、クイズを交えながら駅スタッフの仕事を伝えています。小春さんは、出札のお仕事はご存じですか?

ーー切符の販売でしょうか?

くぅーたぶさん:正解です!「出す札」と書きますから、切符の販売です。ちなみに、改札はどんな仕事だと思いますか?

ーー切符の確認だと思います。

くぅーたぶさん:そうです。改札は漢字にすると「札を改める」と書きますから、駅員さんが切符を確認することをいいます。

ーー以前は、駅員さんが一人ひとりの切符を確認されていましたもんね。

くぅーたぶさん:以前は入鋏といって、ハサミで切符を切っていましたね。入鋏鋏を入れた空洞って各駅違うんですよ。だから、どこどこ駅から乗ったというのが、入鋏鋏の跡を見ればわかるんです。

そして、子ども達に間違えてもいいから発言してもらうことで、自信を持ってもらいたいと思っています。

ーーワークショップに対象年齢はありますか?

くぅーたぶさん:幼稚園児でも小学生でも参加できます。

参加者の目線に合わせて、ワークショップは行うようにしています。小学校1~2年生レベルで作るようにしていますので、問題はすべて平仮名で書いています。

ワークショップでは、駅の一日の流れを見てもらっています。点呼から始まって締め切り業務までやっていますので、Googleのストリートビューを見せて、駅が実際にどのようなところかというのをイベントで見せたいと思っています。駅の掃除・仮眠室の掃除・終電車を見送る仕事もあれば、初電車を迎え入れる仕事もあります。

 

くぅーたぶさん:あとは「電車で忘れ物をしたときには駅係員に教えてね」ということも、子ども達に伝えています。駅では、忘れ物の情報を他の駅とも共有しているんです。パソコンで他の駅の落とし物を調べることもできます。

「ホームに物を落としちゃったときには必ず駅員に教えてね」ということも教えています。マジックハンドというおもちゃがあると思うんですが、あれに似たもので「安全拾得機」というものがあります。それで必ず駅スタッフが落ちた物を取ることを伝えています。

ーー保線電気車両係編の内容についてもお聞かせ頂けますか?

くぅーたぶさん:運転士になるためには、線路や電気、車両の勉強も必要になります。保線は線路を守ることを意味します。電気は、架線や信号の保守作業ですね。

ーーそういった保守作業は業者さんがやるのかなと思っていました。

くぅーたぶさん:下請け業者がやることもありますが、最初は鉄道会社がやるようになっています。

くぅーたぶさん:皆が寝ているときは、駅はどんなお仕事をしているの?という話もしています。

夜間に行われている、線路を直す仕事や架線の電線を点検する仕事の応援もしますね。モーターカーを駅に入れるために線路のポイントを転換するのは、駅員の仕事です。ですから、夜間作業もありますね。

ーーちなみに、現在はほとんどオンラインでの活動なのでしょうか?

くぅーたぶさん:ほとんどオンラインです。参加者によっては、すごく鉄道に詳しい人も参加してくれます。JRの形式など詳しいことをいわれると、私もそこまでわからないことがあります。ある程度は頭に入っていますが。それでは、こちらの写真に写っている黄色いものが何かわかりますか?

 

くぅーたぶさんが通勤途中に撮られた写真。

ーーこの写真は「非常停止ボタン」でしたっけ?

くぅーたぶさん:そうですね。駅で働いていると、実際にボタンを押されることもあります。

お客さんが線路に転落されていたこともあったので。お客さんを引っ張り上げる前に、まずなによりも電車を止める必要があります。そうしないと牽かれてしまうので、間違っても先にお客さんを引き上げるようなことはしないです。それが間違えてしまって、新大久保で起きた韓国人の学生が牽かれた事故が起こりました。それがきっかけになって、非常停止ボタンは全国で普及するようになりました。

参考

平成13年1月26日、JR山手線の新大久保駅で、ホームから転落した男性を救助するために線路へ降りた韓国人留学生の李秀賢さん(当時26歳)と日本人カメラマン関根史郎さん(当時47歳)が入ってきた電車にはねられ、3人とも亡くなる事故が起きた。

くぅーたぶさんが通勤途中に撮られた写真。

ーーこちらのカメラは、駅で時々見かけるような気がします。

くぅーたぶさん:駅の一番後ろの方に設置されているカメラですね。

カメラを使って車掌さんはドアを閉めるんですが、一番前の車両って見えづらいんです。だから、こういう風なカメラを使って、閉まっている状態を見ているんです。

ーー走りこんで乗車されるお客さんもいるかと思うので、きっと確認は慎重になりますよね。

くぅーたぶさん:電車のドアって完璧には閉まらなくても、電車って動くことができるものなんですね。

物が挟まっても引き抜けられるように、わざとドアには5mmくらい遊びが作られています。それで、カバンの取っ手の部分って細いじゃないですか。だから、取っ手の部分が挟まっても「物が挟まっている」って検知されないこともあります。それで、カバンごと引きずられてしまったり、服が挟まって引きずられてしまったりということもあります。

過去に東海道新幹線の三島の新幹線のドアにお客さんが挟まっちゃって、引きずられて亡くなってしまった事故(1995年12月に「こだま475号」で起こった事故)もありますし。だから、ドア使いは危ない仕事だよというのを子ども達に教えていますね。

ーーお客さんの命を預かるのは、本当に大変な仕事ですよね。

くぅーたぶさん:長く働いているとマンネリ化してしまうこともありますが、このようなイベントをすることで「子ども達に教えた」というプライドを感じています。自分はしっかりしていかないとな、と思わせてもらっていますね。

「オンライン鉄道博物館」の夢を叶えたい

ーーワークショップでこれから挑戦したいことはありますか?

くぅーたぶさん:先の話になりますが、「オンライン鉄道博物館」ができればなと思っています。

オンラインで鉄道の床下などの解説ができたらいいなと思っています。それが最終目標です。あとは、小学生向けのワークショップで夏休みの4週間を使って鉄道体験をしてもらったりとか。1週間に1度ずつですが、1週目は運転士のお仕事体験・2週目は車掌のお仕事体験など。実際に時刻表を作ったりなどもしたいですね。

時刻表を作って駅の体験をしてみましょうか、ということができればなと思っています。夢を持った子どもを後押しできたらなと思っています。

ーー私もぜひ、子どもと鉄道ワークショップに参加したいなと思っています。

くぅーたぶさん:時刻表の読み方のワークショップもやっていますから、ぜひご参加ください。

時刻表は見てもわからないことがほとんどだと思うんですが、ワークショップでは索引ページから目標のページを開いてっていうことをしてもらっています。時刻表の読み方を覚えれば、家のなかで鉄道旅行もできますからね。旅行計画して、時刻表があればインプットもアウトプットもできます。

ワークショップで頂いたお金は私の収益には入らず、活動を回す運営費や最近だとSLの乗車券を購入して、お子さん達にプレゼントして一緒に乗車するというようなこともやっています。

ーー最後に、メッセージをお願いできますか?

くぅーたぶさん:現役運転士と話すことができるのはめったに無い経験だと思うので、1人でも多くのお子さんの夢を応援できたらなと思ってやっています。ぜひ、お気軽に鉄道の話を聞きにきてください。

お子さんと一緒にワークショップを楽しむことができたら嬉しいです。

メモ

~編集後記~

実際のワークショップのようにたくさんの鉄道クイズを出題して頂いて、インタビューをしながら鉄道の勉強をさせて頂いていました。私も息子も鉄道ファンなので、ぜひくぅーたぶさんのワークショップに参加させて頂ければと思っています。

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*本名はご本人の希望で伏せて執筆しております*

 

(文・写真/小春**)

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